9/29 演劇女子部『タイムリピート~永遠に君を想う~』感想 #TR永遠君
Juice=Juiceとハロー!プロジェクト新グループによる舞台、『タイムリピート~永遠に君を想う~』を観てきた。昼公演と夜公演の2回。
Juice=Juiceとしては4年ぶりの舞台。演劇女子部としては珍しく客演が居ない形での若い舞台。自分個人としては"めちゃくちゃ推している人"の初めて観る舞台だ(ミュージカル戦国自衛隊はノーカウント)。
一言で言うと、頭では面白く、心では割り切れない舞台だった。推しの舞台を、推しの熱演を、素直に楽しめないことがあるなんて……。
※以下、ネタバレあり。
あらすじと帰結
本作はSFなので、あらすじを前提に話を進めたい。
今度こそ、明日を生きる
宇宙歴3255年。銀河連邦とロア帝国は30年にわたり、冷戦状態となっていた。 銀河連邦の宇宙船・乗組員総勢13名を乗せたエスペランサ号は、 希少エネルギー・ネオクリスタルが眠る惑星を発見。 着陸準備に入ったところ、突如、小惑星のような謎の天体が現れ、衝突により大破してしまう・・・
ところが、乗組員の鉱物学者・ルナは再び目を覚ます。 気づけばそこは、大破する前のエスペランサ号内部だった。
永遠に繰り返される時間の中で、やがて一つの真実が明らかになる。 (公式HPより)
そして、以下が大まかな帰結である。
- タイムリピートして錯乱状態のルナ
- タイムリピート説を研究しているソーマは、ルナの言うことを信じる
- また小惑星にぶつかる際、ソーマはルナの手を握りしめる
- 今度はルナとソーマの2人がタイムリピートをする
- ルナと手を握っているとタイムリピートをしてしまう
- 衝突する小惑星が怪しいという話から、謎解きを始める
- 謎解きの途中で仲間と信頼関係を築きながら、今度は5人、その次は全員でタイムリピートをする
- ゆかにゃは子持ち
- 通信士のツグミが敵国スパイであることが判明し、逃げる
- ツグミの逃げ場所に心当たりがあるルナはツグミと2人で話す
- そこでルナは、自分もツグミ同様に敵国のスパイであり、記憶を操作されて忘れていたことを思い出す
- 全てを思い出したルナは、謎の爆発事故は自身に埋め込まれた爆弾であることをソーマに告げる
- ソーマはなんとかしてルナの爆弾が起動しないように考えを巡らせるが、ルナはもう逃げ道は無いと拒絶する
- 最後のタイムリピートは、ルナとソーマの2人だけで発生する
- 一番最初と同じ光景に戻り、ルナはソーマに別れを告げ、一人脱出ポッドで宇宙空間へ
- ルナだけが爆発し、エスペランサ号はネオクリスタルが眠る惑星の占有権を手に入れたというテロップ
「ミステリ」として
一番最初の感想は、「ミステリとしてよくできてる」というものだった。
あらすじ段階で提示された「突然現れた謎の小惑星」という荒唐無稽な存在をきちんと疑うところから始まって、整備士・テルの嘘、キャプテン・アリサへの疑念、通信士・ツグミの伏線などをきちんと回収した。
そしてツグミからルナが敵国のスパイであったことが告げられ、記憶操作を解除されて全てを思い出した後、自身の脳に爆弾が埋め込まれていること、その衝撃と膨大なネオクリスタルによってタイムリピートが発生したことに繋がっていく怒涛の展開。
間違いなくこれまでの演劇女子部ではもっとも盛大などんでん返しがあったし、あまりミステリを読まない自分なんかは「まじか~~!ヒェー!」という驚きと感動があった。
今回の舞台が概ね評判が良いのも、この「アイドル舞台では稀にみる本格ミステリ」という点にあるのではないだろうか(ここのでのミステリは「推理」というよりも、「種明かし」に重点があるという意味)。
ただし……。
「人間ドラマ」として
ミステリとしての本筋が「謎の小惑星/タイムリピート/敵のスパイ」であるとするなら、人間ドラマとしての本筋は「仲間との信頼/ルナとソーマの愛/永遠の別離」であると思う。
なんですけど!
そこが!!
まったく!!!
感情移入できなかった!!!!
いやなんか、ルナって最初嫌なヤツなんですよ。レオナ少尉とかいう偉い人の肝入りで乗船した偉い鉱石学者様で、料理人のリョウが栄養ドリンクを持って行っても「邪魔するな」って投げつけるような。整備士長のエイジみたいな人間臭いキャラとは当然ウマが合わず「気に食わない」と言われてしまう始末。近い存在の物理学者・ソーマからも「軍の言いなりなんて、科学者として最低最悪だ」と言われてしまう。
なのに、タイムリピートした辺りから一転してその設定は影を潜め、割とすぐボロボロとみんなの優しさにほだされ始める。過去に母親に捨てられたことや、孤児院で育ったことが語られて「人を信じない」という話も描かかれるんだけど、全然感情移入できない。
ソーマもソーマなんですよ。挙動不審の早口オタクで、敵国で親兄弟が殺されて亡命してきたのに、「だからこそ人を信じたい」とか言い始め、ルナに対する姿勢は一貫して「僕を信じろ!」「絶対に君を助ける!」というヒーロー設定。
この、ルナの「人を信じない」と、ソーマの「人を信じたい」が対比になっていて、だからこそ2人は惹かれ合う、みたいなのも解るんですよ。頭では!!!!!!!!
でもね、人間はプロットのために存在してるんじゃないんですよ。舞台だ配役だって言っても、そこに息づいているのはルナとソーマっていう人間なんですよ。それなのに2人の行動動機はあまりに「予め決められた結末へのパーツ」として扱われ過ぎていて、「ドラマは泣かせるためのパズルじゃあねえんだよ」という気持ちが強かった。
で、最後には2人が恋愛っぽい感じを出して「永遠に君/貴方を想う」とかって歌い始めるわけ。いや、歌はめちゃくちゃ良い。でもこんな茶番で泣けるほど涙腺はもろくなってない。
後ほど触れる、「酷すぎる結末」とソーマの絶叫……ぼくはJuice=Juiceのオタクとして、宮本佳林ちゃんオタクとして、嗚咽号泣で客席を立ちたかったんや……。
「ミステリ」と「人間ドラマ」のバランス
この2つの要素は対比するものではない。ただ、得てしてミステリを重点的に描こうとすると感情描写に割く時間が取られるし、人間ドラマを描こうとするとプロットを全て回収できない。
今回、ハロプロ舞台としては異例の1時間50分という長時間のものだった。そして、役者がみな早口だったことも、なんとか巻きで終わらせようという工夫に思う(そのせいでやや台詞が聞き取りづらかった。ソーマは役作りの一環もあったと思うが)。
だから、最大限どちらも描こうとした脚本家・演出家の努力はあったと思うのだが、「人間ドラマの方はやり切れなかった」というのが着地ではないだろうか。
もちろん、脚本家の太田善也さんは「自分の舞台を見て泣いたのは初めて」と仰っていたので、深く感情移入している人達であれば泣けたかも知れないが、初見や2回目では難しい。
じゃあどうすれば良かったかというと、全部足し算でやるのはやっぱり無理があるので、ある程度の引き算が必要なんだと思う。
ハロプロ舞台の最高傑作だと言われ続ける『LILIUM~少女純血歌劇~』も、「このサナトリウムは何だ?どうなるんだ?」というミステリと、「永遠の実験と陰惨な終焉」という人間ドラマを描いていた。
その中でも、「謎のサナトリウム」という超越的な存在にすることで説明を極力省いたり、大部分の配役は人間性を掘り下げなかったり、「引き算」をうまく扱うことで成立させていたのではないか(あくまで憶測)。
具体的に、タイムリピートではどういうところかと言うと……ってすぐに答えが出るならプロの人達にだって出ると思うが、例えばソーマの挙動不審設定、あれは普通に熱血漢の方が行動動機としては分かりやすい。
また、余談的な他の乗組員の見せ場を削ってでも、ルナ⇒ソーマ/ソーマ⇒ルナ、ともに相手に固執する人間的な理由が欲しかった。「だから僕/私は君/貴方が好きなんだ」というところをもっと丁寧に描いて欲しかった。
ミステリの完成度と人間ドラマの完成度、どちらを重視するかは人によるだろう。ただ、自分は「人の愛を扱うなら、必ず人間ドラマを優先させるべき」と思っている。
それほどまでに愛とは重大な感情なのだよ!!
「酷(むご)すぎる結末」について
最後に2人だけでタイムリピートをした後、他の乗組員が全てを忘れている中、自分一人だけが死ぬことを決意したルナは、ソーマに「これからもずっと一緒だから。ずっと」と言い残す。
自分は最初、この意味が解らなかった。この後にすぐ別れのシーンがあるからだ。ただ、フォローしている方が「こんな胸糞悪い結末とは」と言っていて気付いたのである。
タイムリピートの原因は、膨大なネオクリスタルが埋蔵された星のエネルギーと、宇宙船1つを大破できる超強力爆弾のエネルギーによるものである。つまり、脱出ポッドで宇宙空間へ飛び出し、星の引力に吸い寄せられて爆発したルナは、その後も永遠にタイムリピートを繰り返すのである。永遠に、誰もいない宇宙空間で、みんなのことを思いながら死ぬことを選択し続けるのである。
これは確かに酷い。そのことに初見で気付いていたなら、と思わないでも無いが、そもそもルナがその選択をしたことに共感できてないので、やはり泣くことはないだろう。
こんな酷い結末を選んだなら、なおさらもっと人間ドラマを描いてくれ……と思ってしまう。
ただ、書いていて1つ思い当たったことがある。これは救いかも知れない。
ルナに埋め込まれた爆弾が動作するのは、ネオクリスタルが発するエネルギー波が一定の大きさになってからだ。そして、やり直される時間は毎回同じ時間。つまり、ルナが一人でタイムリピートをしても、戻る場所は脱出ポッドの中ではなく、相変わらずエスペランサ号ということだ。
もしこれが、永遠に一人の脱出ポッドの中でタイムリピートをするなら酷すぎるが、エスペランサ号まで戻るなら、いつか、何十回、何百回かのタイムリピートの中でルナが翻意するかも知れない。
憔悴ののち、またソーマと手を繋いで、タイムリピートをして、みんなで助かる方法を選ぶかも知れない。
それは、この物語に一度でも触れた観客である僕たちの「希望」だ。
「永遠を生きる」という酷い宿命を背負わされた、ルナという配役の幸せを願う「希望」。
そう、この船の名前は「エスペランサ(Esperanza)」なのだから…!
(ズキュゥゥゥン、という効果音とともにこの項・了)
各人の演技・及び細部について
書きたいと思ってるんですけど、ここまで書くのに相当疲れました……。
やっぱり推しの舞台なんで、ちゃんと書きたいし、ちゃんと記録しておきたい。
なので時間が経ったら追記します……。必ず……約束だょ、、佳林ちゃん……バタッ