水玉小屋

2012年、アイドル〜ハロプロにはまってもろもろ。

6/25 ミュージカル『続・11人いる!』 感想

によるミュージカル『続・11人いる!』を見てきた。
原作は萩尾望都の『11人いる!』の続編『続・11人いる!』。
場所は最近のハロプロ舞台ではおなじみの池袋サンシャイン劇場

観劇にあたって

原作は未読。11人いる!の方は学生時代に読んだが、そこまで記憶に残っていないので、ハマったわけではないんだろう。同じ"花の24年組"だと、大島弓子派だ。

モーニング娘。の舞台と言えば、

  • ステーシーズ〜少女再殺歌劇〜
  • ごがくゆう
  • LILIUM〜少女純潔歌劇〜

は観たけど、『トライアングル』は見てない。せっかく推しのだーいし(石田亜佑美)主役の舞台だったけど、チケットが全然手に入らなかった。トライアングルに比べると、今回はややチケットに余裕があったように思う。少なくとも定価では入れた。

今回の舞台は当初から観る予定は無かったけど、かねてより演技の素質があるとーー半ばそうであってほしいという希望込みでーー思っていたまーちゃん(佐藤優樹)が重要な役どころを任され、見事にこなしていると評判だったので見に行くことにした。

感想

本公演はダブルキャスト構成で、WEST公演とEAST公演に分かれている。ダブルキャスト公演では、どうしても先に観たパターンの方が記憶に残りやすいので、評判のまーちゃん(佐藤優樹)が準主役を担うWEST公演を最初に選んだ。その後、EAST公演も観劇。

以下、舞台の総評と各メンバーの感想を書き残しておく。

総評

まず全体的な印象として、メンバーみんなの演技力・表現力を感じられた舞台だった。事前に勤務先のアイドル部の部長(ジャニーズなどの舞台も通っている)が、「ハロプロならもっとやれると思ってた。ちょっと残念」と漏らしていたのだが、過去作を観てきた身からすると「こんなにできるようになったのか」という感慨の方が強かった。

どちらかと言うと、そうしたメンバーの「パフォーマンス」には満足できたが、それよりも脚本に対する不満が大きく、メンバーの熱演が不憫に思えるほどだった。

脚本に対する不満点は以下の3点に絞られる。

  1. この物語はバセスカのビルディングスロマン(成長譚)であるにも関わらず、当の本人が成長を伴うはたらきをしないこと
  2. 狂言回しの役割を担うタダとフロルの恋物語が全体のテンポを悪くしてしまっていること
  3. クライマックスシーンにおける、「俺の指を切ってくれ」が盛大なギャグにしかなっていないこと

萩尾望都と言えば、あの時代の少女漫画が恋愛物一色だった中で本格ストーリーを描いた先駆者、というイメージがある。11人いる!も少女漫画には珍しいSF物だ。なので、作者としても「対となる国が軍事大国の介入によっていがみ合い、王が謀略によって反逆者に仕立てあげられる」という鉄板的に熱い舞台設定を中心に描きたかったのではないか。

ただし、当時の少女漫画として恋愛要素は不可分だし、タダとフロルの関係もラブコメ的描き方だったように思う。漫画の中のノリであれば息抜き的に挿入されるラブコメも楽しめるのだが、舞台という「全ての現象が同列に扱われる芸術装置」では、どうしてもシリアスな方向に引っ張られてしまったように思う。

そうしたシリアスな中で2人の関係性を描いた結果、物語として何らかの帰結を持たせねばならず、③の「俺の指を切ってくれ」ギャグに繋がるのである。あの展開になった瞬間、頭の中に座っていた雛壇芸人が全員総立ちになって「いやいやいやいやいやいや!!!」ってウロウロし始めてしまった。だって何も解決しないし、タダの指が全部切り落とされたら、またフロルの番になるじゃん。

しかもこの後、タダの行動に感激したフロルとのザ・ワールド時間における愛の空間が広がってしまい、バパ大臣が完全に凍結したからね。そして時が動き出した後、そのイチャイチャに嫌気が指したのかバセスカも「サインするは……」って諦めるし、超人的設定でオナが全部解決するし、何でもありかよ。

舞台美術/演出

と、脚本への不満はあるものの、それ以外には割と満足できたのでちゃんと良い点を書いていこう。良かった点の一つとして、舞台美術/演出がある。

本作の特徴として、舞台上段中央に大きな2枚のスクリーンがあり、そこにプロジェクションマッピングで色々な映像を写しだして場面への臨場感を出していた。恐らく最近の舞台の流行りなんだと思うが、こういう演出がハロプロにも取り入れられはじめたことは嬉しく思う。

それ以外にも、舞台上のメンバー全員が手からLEDライトを出したり消したりしたり、テーブルを浮かせたり、突如として火を出したり、手品的な要素も盛り込まれていて単純に目に新鮮だった。

役者感想

ここからは、各メンバーの演技についての感想。印象に残った順番に書いていく。

石田亜佑美:フォース(W)/タダ(E)

最初に観たWEST公演の第一印象が「だーいしのフォースめっちゃいいじゃん!!」だった。

何が良いか、表現するのは難しいがつらつらと挙げていくと……

  • 声色が完全に男声で、しかも安定していた
  • 立ち居振る舞い、特に膝・ひじ・脇の開き方などが男性そのものだった
  • 小柄な身体というハンデはあるものの、背筋が伸びて凛と立つ姿が健康な少年の美しさを思わせた
  • 歌声も安定しており、少し前に話題になった『泣いちゃうかも』のような危なさが無かったし、恐らく初めてだーいしの歌で鳥肌がたった
  • 感情を露わにする演技が秀逸で、まるで彼女の感情が伝播してくるよう。バセスカとのクライマックスシーンでは、脚本の唐突さにも拘らず涙ぐんでしまった。釣られて相手役のまーちゃんも泣き出すほどに

元々、だーいしは『ごがくゆう』の頃から感情的な演技はうまかったように思う。『トライアングル』での評判は寡聞だが「だーいしそのもの」という意見を見かけたことがあるので、今回は「なりきる」部分がうまくいったのかなとも思う。

それでもやはり、少しはだーいし特有の"おかしみ"は残っていて、それはそれで役者としての味だと思うし、そういう味を残したまま演じられるフォースのような「おいしい脇役」「2.5枚目」はハマり役なのだと思う。二番手が似合う、というのは本人もオタも不服に思うだろうし、自分だってだーいしが一番(なんの)になって欲しい気持ちはあるけど、このポジションでとても輝いて見えるのも事実。

反面、主役として演じるEAST公演のタダは、後述する工藤遥のタダほど「デキるイケメン」という印象は無かったが、だーいしの実直さが出た好青年だった。なんとなく童貞臭いのも親しみがある。

それでも立派に演じきっており、工藤遥のタダが「板についた自然体の男役」だったのと比べて「演技として演じる男役」と感じたのが良い対比になっていて面白かった。

だーいしの成長を実感できたという意味でも、この舞台を観て良かったと思う。

佐藤優樹:バセスカ(W)/トマノ(E)

問題のまーちゃんである。本作を見に行くきっかけを作ってくれたのは、まーちゃん演じるバセスカの好評価だった。確かに、最初は誰かと思うほど普段のまーちゃんとは異なる人格を宿した演技に衝撃を受けた。衝撃、なんてものではなかった。

2012年から繰り言のように言っているのだが、加入後半年足らずのFCイベントの一部を切り取った『紙切りまーちゃん』という動画を見て以来、まーちゃんには演技適正があるとずっと思っていた。考えて演技するタイプではなく、完全に憑依するタイプの演技。一昔前のまーちゃんであれば、演技をする自分を笑ってしまったり、恥ずかしがったりしてしまって、うまくハマらなかったかも知れないが、頼れる先輩達がどんどん卒業し、そろそろ腹をくくったのかな、という印象。

なんだけど、やっぱりそこはまだ初めての大役。声色も演技も中々安定せず、決めるところは決めるが、細かいところで「まーちゃん」と「バセスカ」を行ったり来たり。終盤には「まーちゃん」でいる時間も長かったように思う。また、他の演技経験豊富な主役陣と比べて、演技慣れしていないせいか滑舌が悪く、何を言っているか判らないことも多かった。

今回改めて気付いたのだが、自分にとって「安定感」と「滑舌」は舞台には必須だ。演技が不安定だと、せっかく舞台の世界に入り込んでいたのに、急に現実に引き戻されてしまって興醒めしてしまう。また、何を言ってるか判らないのは、ストーリーテラーとして失格だ。

と、気付くと同時に、まだ主役を張って1回目。底知れないポテンシャルを感じられただけでも十分で、それ以上は欲を張りすぎだろう。きっと来年も良い役をもらえるだろうから、今から来年が楽しみだ。

ちなみに、酔っぱらいの兄王子・トマノの役は特に気張らない役どころで、自由にやっていた。ただし、時折バセスカが混ざってしまっており、トマノに求められる役割としてはWEST版の尾形春水の方がハマっていたと思う。

譜久村聖:オナ(W)/バセスカ(E)

今回、もう一つの驚きがふくちゃんの存在感である。

これまで、舞台ではあまり存在感のある役どころをもらうことが少なかったふくちゃん。個人的な印象としては、「感情が表に出づらい」と思っていて、それが舞台での使いづらさに繋がっていたのかな?と思う。

ただ、ここ1〜2年、コンサートでは情感豊かな歌を披露しているイメージもあり、そうした表現力が本作にも好影響を与え、生きた演技に繋がっていたように思う。特にバセスカは、その安定感からまーちゃんが演じるよりも"王"としての威厳にあふれており、EAST公演の完成度の高さに一役買っていた。あ、ここで初めて書くけど、舞台全体ではEASTの方が完成度高いと思う。

とは言え、演技もいいけどやっぱりふくちゃんの場合は歌・ダンスで魅せる部分が多く、オナ役の方が見せ場は多かったかな?という印象。特に歌唱に関しては本公演の中では最良と言ってもよい出来で、これまでのコンサートではなかった「鋭さ」を感じることができた。

ふくちゃんの歌の印象と言えば、

  • 2012年頃…悪くないけど印象に残らない
  • 2013年頃…うまいけど声量に物足りなさを感じる
  • 2014年頃…声量もついてきてオールラウンダー
  • 2015年頃…情感豊かで素敵。だけどあと一歩パンチが足りない

みたいな感じでそこまで注目していたわけではないんだけど、今回の舞台では観客や他の演者に対する「鋭さ」、「私の歌を聴け」というエゴを感じられてとても良かった。

一つ惜しい点があるとすれば、バセスカに威厳がありすぎて、「悩める王」というキャラクターからは少し遠ざかっていたところか。

牧野真莉愛:チュチュ姫(W)/オナ(E)

プライベートのオタク仲間の間では、牧野真莉愛アンチとして活動している自分も、今回の舞台では見直さざるを得なかった。それほど存在感を放っていたと思う。

もちろん配役も良かった。兄や叔父のことを健気に思う妹姫役や、神秘的な巫女役など、非凡なシルエットの美しさがハマる役をもらっていた。ただ、それだけではない「演技の安定感」は先輩たちと比べても目に見えて差がついておらず、相当な練習をこなしたことが伺える。

繰り返しになるが、舞台において「素に戻る」「滑舌が悪い」というのは興醒めの原因で、興醒めというのは舞台の一番の敵だ(と自分は思う)。それがあの重要な役どころでボロが出ることなく演じきったことは素直に賞賛したい。3X歳が15歳のアンチなどやっている場合ではないのである。

ただしカーテンコールで無理やりねじ込んで来たまりあんLOVEりんは絶許。あと真莉愛会も××××

工藤遥:タダ(W)/フロル(E)

タダは「いつものイケメン工藤」という印象。新鮮さは無かったが、男役としての完成度は上がっており、歌の響きも良かった。何より伸び伸びと演じる姿が堂々としており、カーテンコールの挨拶では座長に見えたほど。

フロルは、どぅーオタ待望の女子(?)役。こちらもそつなくこなしていたように思う。歌の面ではタダ役のだーいしを引っ張っていた印象もあり、激しく動くコンサートでなければ、歌は割といいなと思えた。でもあのカツラは無いわ……。

小田さくら:フロル(W)/フォース(E)

フロルはちょっと厳しかったなあ。あのカツラの髪色、絶望的に似合ってなかったし、本能的な意味での女子力が高いメンバーだから、キャラクターとしての中性性を感じられなかった。

ラストシーンで「お前が言うなら、女になってもいいよ」ってところ、今にも「この後めちゃくちゃセックスした」ってテロップが流れてきそうだった。

反面、フォースは割と良かったな。男に見えるか見えないか、ギリギリの感じだったけど、それとは別に技巧的にこなしてたように思う。ただ、これは脚本の問題なんだけど、ふくちゃんと小田ちゃんという組み合わせにそれほど燃えないせいか、友情を起点にした感情の爆発はあまり入り込めなかった。そういう意味では、勝手に脳内補完できるだーまーの組み合わせは良かった。全部脚本が悪い。

生田衣梨奈(E)/岸本ゆめの(W):レッド

レッドに関しては2人同時に。それぞれの個性が出ていて面白かった。きしもんは経験が少ない中でも、宝塚の人と同じような立ち位置で堂々とこなしていたように思う。

ただ、これはダブルキャストの相手が悪かった。生田はさすが身体能力で、軽々と剣を扱い、身のこなしも迫力があった。こればっかりは一朝一夕で追いつけるものでも無いし、生田が日頃アクロバットなどで身体芸術を磨いている成果が出てるなという感想。

EASTレッドの時のほとばしる生田と、WEST石頭のモブに徹する感じで差がありすぎてワロタ。


そろそろ疲れて来たのでここまでにする。

モーニング娘。はやっぱり多才だな。