2015年3月3日、その恋は
記憶を書き残せば、それはきれいな思い出になる。
そうでもしないと、歩き出せない気がした。
きっと可愛い、さみしい、しか書けないけれど、覚えていてね。
いつかはてなブログのサーバが消えるまで。
3月3日 午前2:00
Berryz工房・清水佐紀に宛てた最後の手紙を書き始めた。最後に書くことってどんなことだろう、と考えながら、Evernoteに下書きをタイピングしていく。出てくる言葉は、ありがとう、おめでとう、好き、なんていうありきたりなもので、(いやーでも、本当に伝えたいことって、こんなことじゃないよな…)と思い直して、「待ってる」と書いた。
そこから先は、今見てもかなり恥ずかしい内容で、まさに「深夜のラブレター」という内容だった。正直キツい。自分が佐紀ちゃんなら最後まで読めない。なんか最後の方に永遠の愛とか誓ってる死。しゃきたむごめんね……。
3月3日 午前7:00
手紙を清書し終えて、飾りのシールやメッセージの花束を添えて、カメラのキタムラでプリントアウトするしゃきたむ画像も作り終えて、メッセージ周りはだいたい終わった。
残すところ、ウチワづくりのみである。人生で初めてのウチワ、まさか自分が作るとは思わなかった。ただ、なんとなくファンがメッセージボードとかに「ありがとう」とか「おめでとう」とか書いて掲げてるのって、すごく"愛されてる感"があっていいなーと憧れてたから、その感じの一助になればいいなと思って作った。ウチワにしたのは、2/28-3/1の有明公演で公式に販売されたから。
結局書いた文字はこれだった。完成した時に徹夜のテンションで友人にLINEを送ったら、「そういうの作るようになっちゃったんすね」というドライな言葉が返って来たのは胸に刺さった。
3月3日 午後5:40
ようやく会場内に着き、急いでオタTに着替えた。Tシャツは、この日に販売されたサインと手形が入ったTシャツ。あと何回、このTシャツを着る機会があるだろうかと思いながら、真新しい工業製品のにおいのするTシャツに首を通す。
会場に入ると、武道館のステージには場違いなほどドリーミィーなお城が目に入った。その堂々とした佇まいに、メンバーやスタッフの意気込みが詰まっているようで、より一層、今日が最後なんだなと実感する。
席はアリーナB7の2列目。前を向けばメインステージ上手とサイド花道の境界くらい、横を向けばセンターステージの真横くらいの位置だった。隣の佐紀ちゃんオタのおじさんと、いつファンになったか、なんて他愛もない話をして過ごす。
注意事項のムービーが終わり、まだ明るい内に関係者席に他のメンバーが現れ、いつもはアンコールの時に斉唱する「Berryz行くべ!」コールが始まる。
メンバーが出てくるまでの間、約20分をかけて、武道館の空間という空間に「Berryz行くべ!」が充満していった。思えば、当事者として武道館に立つのは初めてだ。ガキさんの武道館も、れーなの武道館も、CHANCEも、あななし武道館も、スマイレージも、サンキューベリキューも、GMMLも、どこか傍観者として繰り広げられるお祭りを眺めていたように思う。
当事者として見上げた武道館では、今まで場違いだと思っていた日本国旗に、なんだかすごく威厳を感じられた。そしてその国旗を震わせるように、いつまでもベリオタの声が鳴り止まない。
Berryz行くべ、オイオイオイオイ
ただ、今日はその勇ましいコールにさえ、物悲しさを感じる。
それでもほら、もうすぐ幕が開く。
やさしさ
暗転、メンバーの登場、そして「スッ」。
一曲目の『スッペシャルジェネレ〜ション』を聴いて、ああ、やさしいな、と思った。3月3日当日、様々なところで『武道館でスペジェネの「スッ」をミスったら一生引きずる』というツイートを見かけた。
自分も新参ながらそこだけは頑張ろうと思っていたけれど、きっとコンサートが始まってワイワイしてる中だと忘れちゃうだろうな、という不安もあった。だから一曲目、全員の耳目が一箇所に集中している中での「スッ」には"おまえらミスんなよ"というメンバーの優しさが現れていたように思う。
そしてステージング。通常、武道館ではメインステージとセンターステージ、そしてサイドの花道を行き来するのが通例だ。今回は、それに加えてお城のセットに登ることで、2階席や、2階のサイド席にもまんべんなくアプローチするような場面が何度も見られた。2階席に向けて大きく手を振るメンバーの姿は、とても慈愛に満ちているように見えた。
セットリスト
セットリストは全てがフルコーラスだった。「メドレーでもいいから、全部の曲をやりたい」というのは、2/28〜3/3の4連戦が決まった後の、佐紀ちゃんの言葉だ。最初はそういう構想もあったかも知れない。けれど、2番でしか歌わないメンバーや、2番にこそ思い入れのあるファンも多いはずで、そんな中、全ての曲をフルコーラスでやってくれたのは、「あの曲が聴きたかったな」という思い以上に、嬉しいセットリストだった。
そして多少は想定していたゲストも無く、ソロやユニット曲も無く、(ああ、Berryzは、Berryz7人で終わるんだな)というメンバーの意志を感じたセットリストだった。セトリ厨のワイでも何の文句も無かった。
berry's princess
今回の舞台演出で、一番の見せ場だったろう、この演出。それまでの可愛らしい赤×花柄ベースの衣装から、水色のドレスに早着替えしたメンバーが、電飾きらめくお城の上で歌い踊るこの光景は、まさに夢の世界だった。
セットリストも、
- 21時までのシンデレラ
- ロマンスを語って
- 秘密のウ・タ・ヒ・メ
と続き、お姫様感満載で、最後に推しのお姫様姿が見られて本当に良かった。
あなたなしでは、10年やってられない
シンデレラ・ドレスのままクラシカルなイントロが流れ始め、完熟Ver.の『あなたなしでは生きてゆけない』が流れ始めた。ここで急に涙腺がゆるくなり、なんとなく棒立ちのまま、メンバーがセンターステージに歩いてくるのを眺めていた。青くて暗い、水槽のような照明の中、場位置についた佐紀ちゃんの横顔は、逆光に切り取られた白い輪郭と、伏せたまつ毛が美しく、あの少年をここまで美しくした12年の歳月に思いを馳せた。
この曲は不思議な曲だ。感慨深いバラードでもなければ、子ども時代を想う可愛らしい曲でもなく、オケもスカスカだし、いつ歌ってもなんとなくこちらの感情にチグハグな印象が、どことなくBerryzっぽさもあり、この曲以上に「原点」を思わせる曲は無いように思う。
あななしが終わり、同じくAKIRA編曲のアイドル10年が始まる。センターステージで披露されたこの曲は、自分の位置からはほとんど見えなかったけれど、佐紀ちゃんのソロパートである「デビューしてからも山谷あり」ではこの日一番跳んだ。後ろのmiyaオタすまん。
サルとシンデレラ城
メンバーの事前インタビューでも武道館でやる気満々だったモンキーダンス。原曲衣装はさすがに恥ずかしかったらしく、可愛らしくアレンジしたモコモコ衣装だった。マイクにバナナのおもちゃが付いていて、そのバナナが安定しないのか、歌い始めの佐紀ちゃんはしきりにそのバナナの位置を調整していた。
サル衣装の佐紀ちゃんは本当に楽しそうで、お城の上に移動する時も、階段を2段飛ばしする勢いで駆け上がっていた。最近のアンニュイぶりっこお姉さんとは違った、おふざけ大好きな佐紀ちゃんの、子供らしい素顔が見れたように思う。
キャプみやりーでのMCは、何を喋るわけでもなく、ただ武道館にイタズラしに来たサルが、だらだらとセンターステージを闊歩し、明るい場内を見渡し、降り注ぐファンの愛を実感していたように見えた。
熊井ちゃんのデカさは、もはやサルではなかった。
ベリはベリらしく
本編ラストスパート、このセットリストで体力を根こそぎ持って行かれ、喉も枯れた。
- 本気ボンバー!!
- 世の中薔薇色
- ライバル
- すっちゃかめっちゃか~
- 一丁目ロック!
この辺りは、「ベリはベリらしく、明るく終わる」というインタビューの内容を受けてのセットリストだったように思う。
永久の愛をともに
本編が終わり、なかなか揃わないオタのBerryzコールがようやく揃い始めた頃、ベリオタ感涙のBye Byeまたねが流れ始める。しかしながらド新参ゆえこの曲への思い入れは薄く、(白いドレスの佐紀ちゃんが綺麗だな)という安い感想とともに自作のウチワを胸の前で握りしめていた。
ただ、「バイバイ」と言われているのに「まってる」というウチワを持つ往生際の悪さに、さすがに自分でも滑稽だなと思い始めたのは事実。
最後のMCは、本当に七人七様だった。
梨沙子は、まるで親に別れを告げるように深々とお辞儀をし、千奈美は、普段からは想像つかないほどか細い声でメンバーとの別れを惜しみ、そして佐紀ちゃんは…
佐紀ちゃんは、とてもきれいでした。
顔はビジョンでしか見えなかったけど、遠くから見た佐紀ちゃんは、あの細くて筋肉質な足でちょこんと立って、小さな肩に、柔らかくふくらんだ白いスカートがとてもお人形のようだった。
涙か鼻水か判らないほど、顔中が泣き濡れて、眉毛は下がり、鼻の頭も赤くって、あんまりにもひどい顔だったから、終演後のブログのコメントに「ひどい顔だったけど、すごくきれいでした」って書いたら初めてAmebaにコメント弾かれたくらいで、でも、単なるレトリックではなく、本当にきれいだった。
"楽しいことばっかりじゃなくてツライことも大変だったこともたっくさんありましたけど、でも、すべて今の私がいるのは、そのいろんな経験をさせていただいたからだな、と思います。"
"この11年間を、みなさん絶対に忘れないで下さい!"
本心を表現することがあまり得意ではない佐紀ちゃんの言葉は、いつも鈍感な自分にはうまく受け止められないでいた。だけど最後のMCで語ったこの言葉に、ようやく(ああ、そうだなあ、本当に、そうだ)と思うことができた。
この言葉が楔となって、いつまでも胸に刺さったまま、あなたの影を追い続けます(遺族度MAX)。
MCが終わり、『永久の歌』が始まる。最後は楽しく終わるBerryzらしいな、と思って振りコピしていたら、不意に涙が流れた。今まで古参が永久の歌で泣いてる話を聴くたびに、(ワイ新参なんでムリムリですわ〜〜完全にロマンス派ですわ〜〜)とヤレヤレ顔だったんだけど、ようやく最後にベリオタの末席に足をかけたのかな、と思えた。
"全ては永久の歌に包まれ"
包まれ、終わった。終わったと思っていた。そうか、Wアンコールがあるのだった。かくして皆の予想通り『Love together!』のタイトルコールがある。ただし、鳴り始めたのは、ピアノの音と、梨沙子のか細い歌声だった。
涙は流れても、号泣はしないだろうと思っていた。けれど、気がつけば声を上げて泣いてしまった。何を思ったわけでもなく、ただお別れが悲しくて泣いた。寂しかった。好きな人が遠くに行くのが辛かった。
「最後は明るく終わる」、メンバーもオタも当然のように口にするそれは、とても素敵なポリシーだけど、でも最後はこの曲と、この演出だった。これを決めたのは誰だったんだろう?
個人的には、つんくだったんじゃないか、と思っている。つんくがあの脳天気な声で、「さみしい時は、泣いたらええねん」と、メンバーに、オタに、語りかけているような気がした。
この曲のAメロで、名前コールが入ったことに、多少の賛否両論があったらしい。確かに、あの演出なら自分も静かに聴きたかった。でも、コールを入れてしまう気持ちもわかる。それは盛り上がりたいとかじゃなくて、義務でもなくて、ただメンバーを応援したい、名前を呼びたい、そういう現場オタの本能みたいなものだったんだろうと思う。
その想いが、終盤の合唱につながった。誰からともなく歌い始め、低い、地鳴りのようなオタの声が360度から響きわたる。武道館中が厳かな空気に包まれ、まるで聖堂に響く聖歌のような、でも聖歌と呼ぶにはあまりに感情的で、賛美歌と呼ぶにはごく私的な、あれはまるでレクイエムのようだった。メンバーが、オタが、"Berryz工房"という魂を鎮めるためのレクイエムだった。
"好きよ 好き 大好き
また 会えるよね"
誰もが、その言葉を、誰かに向けて、何かに向けて、全てに向けて、口ずさんだ。
その恋は
あれから五日経ち、未だにあの日から抜け出せないこの感情は、まぎれもなく失恋だ。
朝起きたらブログの更新通知が届き、会社から家に帰る終電でブログにコメントを打つことがなくなった今、どんなに頭の中にフタをしても、気がつけば3月3日の光景が、Love together!が溢れ出してくる。
これからはハロープロジェクト・アドバイザーとして新たな一歩を踏み出す佐紀ちゃんを応援するだろう。
きっと清水Tを来て遺族顔でひなフェスに行くだろう。
それでもあの日、あの佐紀ちゃんの言葉を聞いて、この恋は終わったと感じた。
またいつか、あなたに恋する日をまっています。